1.はじめに
私と彼との関係は、「一心同体」という言葉で表すことができる。小さい頃から一緒だったから、私は彼のことを誰よりも多く知っているし、彼もまた、私の全てを知っているはずだ。私の人生は、もはや彼の存在なしに語ることはできない。
未来のことはわからないけれど、このままずっと、彼と一緒に過ごせたらいいな……。そう考えていた。
しかし、彼には、私に内緒にしていた秘密があった。今まで彼が私に見せていた顔は、彼の本当の姿だったのだろうか。私にかけてくれた言葉や、数々の贈り物は、彼の本心からのものだったのだろうか。それとも……。
目の前には、1冊の本がある。この本を開けば、彼の全てを理解できるはずだ。しかし、それは同時に、彼に対する印象が大きく変わってしまう可能性を秘めている。
「このままずっと、彼と一緒に過ごせたらいいな……。」
そんな私の願いは、叶わなくなるかもしれない。
長いこと考えた挙句、私は決断をした。私は本を……
こんにちは。AnotherVision 8期の「KaDi」です。この記事は、AVCC2021の12月15日の記事になります。大幅に遅れての投稿です。
たった今この文章を読んでいるみなさん、ようこそ。メタ視点のKaDiです。
こちらの記事ですが、なんと2万字あります。そのうえほとんどが既存のゲームの分析により構成されています。もしかしたら、途中で退屈になってしまうかもしれません。
そこで、こんなものを用意しました。
なお、記事の最後にメタ視点の僕から答え合わせがあります。それまでにこのブログの秘密を見抜くことができたら、あなたは天才です。
では、この記事の何がおかしいのかを考えながら、このあとの文章をお楽しみください。
AnotherVision 8期のKaDiに戻します。
目次
2.自己紹介
- ハンドルネーム:KaDi
- 所属:
- 年齢:20歳
- 好きな食べ物:寿司(特にウニ)、抹茶味のお菓子
趣味について
謎解きや脱出ゲームなどのゲームの創作活動をしています。今まで作ってきたものを少し紹介すると、
AnotherVisionで、家にキットを届けて、家で遊ぶことのできる謎解き「アケ_テ」を作ったり、(↓こちらから購入できます。)
個人制作で、LINEの公式アカウントを使って遊べる謎解き「#新五十音表謎」を作ったり、(↓こちらから無料で遊べます。)
脱出ゲームが簡単に作れるアプリ「脱出ゲームメーカー」で脱出ゲーム「PROJECTOR」を作ったり、(※作者のDark_Hawaiiは私が昔使っていたハンドルネームです。)
いろいろ作っています。
ただ、これらはいずれも技術的には簡単なものばかりです。ここ最近は、せっかくならwebサイト制作やLINE APIを本格的に勉強したり、アプリ開発のためのUnityおよびC#を勉強したりして、発展的なものを作りたいと考えています。たぶん次の春休みに何かしらやります。
多くの人がやっているAtCoderはたまにやっていて、
こんな感じです。Pythonでやっています。まわりの強い人々と比べると全然ですね。
よろしくお願いします。
3. 物語を作りたい
さて、2021年がもうそろそろ終わりを迎えようとしていますが、今年一年で触れてきた様々なコンテンツのなかで、みなさんは、何が記憶に残っていますか?
謎解き、マーダーミステリー、イマーシブシアターのほか、映画、本、ライブなどのイベントなど、様々なものが記憶に残って、一つには決められないかもしれません。
僕の場合は、
などが記憶に残っています。
では、みなさんが今思い浮かべたコンテンツは、なぜ記憶に残っていますか、あるいは、思い浮かべたコンテンツの中のどんな要素が、あなたの記憶にコンテンツを刻んだのでしょうか。
僕の場合は、大きく分けると2つありました。
1つは、ゲームにおける「謎解き」の部分、すなわち何かよくわからないものの意味を理解する過程が、僕にとっては見たことがなく斬新だったコンテンツです。Song of Bloom、SPACE、ライアーゲームがこれにあたります。
そして、コンテンツを僕の記憶にとどめたもう1つの要素は、「物語」です。
物語により僕の心が動かされたコンテンツが、多く記憶に残っていることに気がつきました。特に、物語がゲームの一要素であり、ゲームのルールやデザイン、音楽などと重なり合って相乗効果を生み出したものが、強く記憶に残るようになっていました。
そんなわけで、良い物語に影響を受けた僕がここ最近でやりたいことの1つが、(特にゲームの中の一要素としての)「物語を作る」になりました。
しかし、僕がよく作っている「謎解き」や「脱出ゲーム」というジャンルには、物語があることで良さが増している作品が多いにもかかわらず、「物語は不要である」という主張がしっかりと存在しています。実際僕からしても、このコンテンツに物語は余計だな、と思うものが多くあります。
つまり、物語は、素人が中途半端にゲームに組み込むと、むしろ悪影響を及ぼしかねないのです。ならば、
ゲーム中の良い物語についてしっかりと分析をしたうえで、物語を作ってみよう!!!!
…
…
(頓挫する音)
物語を分析するとして、どんな分析をすればいいのだろう。そもそも分析対象の「物語」ってなんだろう。「良い物語」の「良い」とは具体的にはなんだろう。
そして、物語を作るとして、何を意識してプロットや文章を書けばいいのだろう。伏線回収、タイトル回収、やってみたいけど、どうやったら自然になるんだろう。
——子供時代から本をたくさん読んできたわけではなかったり、最近まであまり物語について考えていなかったりということもあり、「理論」と「実践」でいう「理論」も「実践」も全く持ち合わせていませんでした。
一時期小説家になろうに投稿していた短編小説は、あとから読み返したらただの駄文でした。
今のままでは良い物語の良いところのみを取り出してアレンジしようなんて不可能です。
まずは「理論」の方をなんとかしよう……!
というわけで、本を買いました。右側はゲームデザイン関連の本、左側が今回のメインとなる物語の分析や制作に関する本です。
これらを読んで、物語の何がよかったのかということについて少しだけ言語化ができるようになりました。そこで、この記事では、
- 今年触れた、ゲーム内の物語が記憶に残った作品を複数取り上げ、「何が僕にとって良かったか」「ゲームと物語のつながりは何か」を言語化・分析する
- 言語化したものを、テーマごとにまとめてなんらかの結論を出す
- そこから、僕が良いと思う新しいゲーム内物語の展開を考えてみる
ということをやってみようと思います。ただし、物語の分析は何を見るかにより多岐に渡るため、ブログ記事という限られたスペースでは散らかった文章になりかねません。
そこで今回は、分析するテーマを
- 物語の内容の分析
- 各キャラクターの物語中の機能は何か
- 物語の中で心が動いた瞬間は何で、それはなぜか
- ゲームと物語の関係
- ゲームのプレイヤーはどの視点にたってゲーム中の物語を見ているか
- ゲームと物語がどのように調和していたか
に限定することにしました。分析をするゲームは、
- ゲームジャンル「マーダーミステリー」
- 原神より「無風の地に閉じ込められたら」
- 「喪失メロディア」
を選びました。上記物語において要素を分析したあとは、そこで得られたものから、何かしら物語が作れるでしょう。
では、物語にあまり触れたことのない人による「ゲームの体験をより深くする『物語』を作りたい」、はじまりです。
4. 『マーダーミステリー』の考察
マーダーミステリーとは
みなさんは「マーダーミステリー」というゲームジャンルを知っていますか?
簡単に説明すると、ミステリー小説の登場人物(=事件の容疑者)一人になりきり、他の人との議論によって、それぞれの人が持ってる目的の達成を目指すゲームです。ゲーム全体の雰囲気は、「物語」つきの人狼ゲーム、という表現が近いです。
基本となるゲームの流れはこちらです。
- ゲームを遊ぶ複数人で集まります。オンライン上や会議室、あるいはマダミス専用の会場などで遊ばれます。
- はじめに、GM(ゲームマスター)から、今回の事件の容疑者となる人物の簡単な情報(名前、年齢、職業など)が与えられるので、それぞれがなりきる人物を決めます。
- 各プレーヤーに、その人がなりきる人物のキャラクターシートと呼ばれる資料が渡されます。そこには、設定、秘密、行動、目的などが記されています。それぞれの情報は以下のような感じです。
- 設定、秘密:あなたがどのような人物で普段何をしているのか、他の人とどのような関係にあるかが詳しく記されています。その中には、他の人が知らない情報や関係性も多くあり、今後の議論で隠さなければいけません。
- 行動:事件の直前や事件後にあなたが何をしていたかが書いてあります。基本的にはあなたしか知りません。殺人事件の犯人であれば、どのように殺害したか、凶器をどこにしまったかなどが書かれています。
- 目的:今後の議論におけるあなたの目的も書かれています。犯人なら、「自分が犯人だとばれない」、探偵など犯人以外なら「自分が犯人だと言われず、犯人を探し出す」の場合が多いですが、「大金を盗み出す」「恋人に告白してOKをもらう」など追加の目的が記されている場合もあります。
- 10分程度の時間で、一人でキャラクターシートを読みます。
- キャラクターシートをもとに物語内の人物になりきって他の人と一緒に議論をします。それぞれの人物は、自分のバレたくない秘密を嘘をつくなどして隠しながら、犯人の発見や目的の解決を目指します。
- 一定時間が経過したら、犯人だと思う人を多数決などで決めます。その人が犯人であれば犯人以外の人の勝利、その人が犯人でなければ犯人の勝利です。
- その後は、解説・感想戦です。他の人が何をしていたか、他の人の目的は何であったのかが、GMから解説を聞くなどして共有され、5. での会話を振り返ったり他の人のキャラクターシートを読みあったりします。
より詳しく細かなルールが知りたい方は、こちらの記事が参考になります。あとは実際にやってみよう!
マーダーミステリーは、基本的に一度きりしか遊ぶことができません。
それはなぜかというと、何度か書いた「キャラクターシート」そして、さらに広くは、ゲーム全体のシステムや、人数・物語・設定などを総括したルールである「シナリオ」にの体験が一度きりだからです。
トリックが未知状態のミステリーは、本ごとに一度きりしか読めません。同じくマーダーミステリーも、事件内容・ゲームの人数・細かなルールがぞれぞれの「シナリオ」ごとに定まっており、同じものなどありません。「ゲームジャンル」でありながらシナリオごとの唯一性が高いのは、かなり特殊であるといえます。(同じことは、謎解きイベントにもいえるでしょう。)
「一度きり」のコンテンツの本質
マーダーミステリーの「一度きりの物語」がなぜ面白いのか、というのを考えてみましょう。
マーダーミステリーは、「ミステリー小説の登場人物になりきり演じる」ゲームなので、その面白さの一部は、ミステリー小説を読むときの面白さと共通しています。
では、ミステリー小説を読むことの一体何が面白いのか。
それは、真実を「知る」という行為であると私は考えています。犯人は誰で、どのような背景があり、どうやって犯行に及んだのか、それらを最後に「知る」瞬間がもっとも「面白い」という感情がうまれると思っています。
そして、「知る」という行為こそ、マーダーミステリーに限らず、一度きりのコンテンツの全てに共通する面白さの本質であると私は考えています。何も知らない状態からある情報を「知る」とき、それにより他のことを「知りたい」という感情が生まれたとき、これら全てにおいて「面白い」「楽しい」という感情と結びつくと考えています。
では、「知る」「知りたい」という観点に基づいて、先ほどのマーダーミステリーの流れを解釈していきましょう。
1. の集まった時点では、あなたはシナリオについて何も知りません。
2. でなりきる人物を決めるとき、あなたは、人物の名前と基本情報を「知る」ことができます。これにより、どんな人物により繰り広げられるかを知ることができるので、事件内容を「知りたい」といった感情がうまれます。
3. 4. でキャラクターシートを読むとき、あなたは特定の人物に関する詳しい情報を「知る」ことができます。これにより、特定の人物から見た事件の概要や人間関係がわかり、「議論の中でどんな情報を聞こうかな」「真実はこうかな」といったことへの知りたいがうまれます。
5. で他の人と議論をするとき、あなたは他の人だけが持つ情報を「知る」ことができます。そして新たに発生した「知りたい」を動機に、あなたはさらにいろいろな情報を他の人との会話の中で知ることができます。いわば、ここでは「知る」「知りたい」が短いスパンで何度も何度も繰り返されます。
7. の感想戦では、最後に真実や他の人の持つ情報を「知る」ことができます。そして、この時点でこれ以上知ることのできる情報がなくなったので、ここでゲームは終わりとなります。
このように、マーダーミステリーのゲームシステムそのものが、「知る」が何度も繰り返され、「知りたい」が続くように設計されていることがわかります。
しかし、「知る」面白さの由来をミステリー小説としたように、「知る」「知りたい」の繰り返しという要素だけであれば、マーダーミステリーに限らずとも、読書や映画鑑賞などにも当てはめることができます。では、これらと違った、マーダーミステリーの「知る」「知りたい」に関連する特徴とはなんでしょうか。様々なことが考えられますが、私は「多彩性」と「能動性」の2つが面白いという感情を引き出すと考えています。
「知る」手段の多彩性について
情報を知る手段について考えてみましょう。
読書では、本を「読む」ことのみで、映画鑑賞では、映像を「みる」、声を「聞く」ことの2つで、情報を得ています。では、マーダーミステリーではどうでしょうか。改めてゲームの流れをふりかえってみましょう。
2.で人物を決めるときは、名前や基本情報が書かれたものを「見る」に近い情報の取得をします。一方、
3. 4. でキャラクターシートを読むときは、文章を「読む」ことで、
5. で議論をするときは、他の人と「話す」ことで、
7. の解説では、話を「聞く」ことで、
それぞれ新たな情報を知ることができます。
また、これらはあくまでマーダーミステリーの基本的な部分であって、シナリオやプレイ手段によっては、カードを「引く」、鍵を「開ける」、人を「脅す」など、知るための方法が豊富に存在します。
このように、様々な方法で知る手段が用意されるのはゲーム特有であり、知り続けることに飽きず、常に面白いという感情が継続する一つの理由であると考えています。
「知る」手段の能動性について
ミステリー小説では、小説を前のページから読むという特性上、どうしても作者が決めた順番でしか情報を得ることができません。すなわち、受動的にしか情報を得ることができません。映画鑑賞や、多くの謎解きイベントにも同様のことがいえるでしょう。
しかし、マーダーミステリーでは、ゲームのメインとなる「議論」が参加者同士で行われるため、決まった順番がなく、各プレイヤーは自分がほしいと思った情報を得るため、話す人や内容を考え、実行します。すなわち、「知る」ための行動に能動性が存在します。
もちろん、受動的に「知る」ことができても知る喜びや楽しさは十分あるのですが、そこに「選択」「思考」というステップが入り、それらが成功すると「知る」ことができるようにすることで、より「知る」喜びが大きくなると考えています。この能動性も、ゲームに特有のものであり、面白いを引き出すと考えています。
さて、ここまでは遊ぶ「人」に注目してマーダーミステリーというゲームを見てきましたが、「キャラクターシート」という一つのアイテムに注目し、アイテムの持つ複数の機能というマーダーミステリーの特徴をみていきます。
アイテムの持つ複数の「機能」について
ミステリー小説では、それぞれの章、あるいは節・文章・文字は、読者が決められた通り前から読むことのみを想定して書かれています。そこに読者による違いは発生しません。しかし、マーダーミステリーでは、複数人が非対称に情報を持つという特性上、それぞれのキャラクターシートの内容をプレイヤーがいつ「知る」のかが異なるという特徴があります。
キャラクターシートに記載されたキャラクターを演じる人は、3. の段階で中身を知ることになります。すなわち、事件の概要を知るための手段としてキャラクターシートが存在します。
一方、キャラクターシートに記載されたキャラクター以外を演じる人は、7. の段階で知ることになります。すなわち、事件の真相を知るための手段としてキャラクターシートが存在します。
また、一部では、キャラクターが隠すべき秘密としてアイテムが登場することがあるのですが、それもアイテムの持ち主を演じる人にとっては、隠すべきもの、その他の人にとっては見つけるべきものという役割があります。
同じキャラクターシートやアイテムであるのに、いつ、誰が、どのような背景でそのキャラクターの物語を知るかによって、情報の持つ意味や価値が変わってくるのは、マーダーミステリーがゲームであるしるしであり、そしてゲームデザインにおいて一つ優れている点だと思っています。
まとめ
では、ここまでの内容をまとめます。
さて、ここまではマーダーミステリー一般に共通する部分だけで話をすすめ各「シナリオ」に関する話はしていませんでした。これは、具体的なシナリオの話は「ネタバレ」となり、今後遊ぶ人の楽しみを奪いかねないためあえて避けていたのですが、最後に、私が今までに遊んできたシナリオのなかでも特におすすめの「ランドルフ・ローレンスの追憶」を紹介します。
『ランドルフ・ローレンスの追憶』の紹介
具体的なあらすじや実際に遊びたい方はこちらから。
「ランドルフ・ローレンスの追憶」は、マーダーミステリーの特徴として先ほど述べた「能動的な『知る』」がとても重視されています。そして、(ネタバレになるため言えない)巧みなゲームデザインが、私の心を動かし、記憶に強く残りました。
あまり詳しく言及できませんが、遊んで後悔することはまずないと思いますので、気になる方はぜひ遊んでみてください
5. 『原神』のストーリー『無風の地に閉じ込められたら』の分析
原神とは
続いて、原神内の1ストーリーについて分析していきます。
まずは原神について紹介を
ざっくり説明すると、原神は、オープンワールドゲームとして3次元の世界内を動き回れる中に、キャラクターをガチャで引き様々なアイテムで育成し戦闘するソシャゲRPGの要素をかけあわせたゲームです。
3次元のなんでもできる世界かつ、ソシャゲであり常にゲームを進化させ続けられるという点は非常に大きく、定期的なイベントやアップデートで、音ゲー・釣り・ミニゲームなどなど、あらゆるゲームができるゲームとしての側面も最近は持ちつつあります。
原神に登場する物語もピンキリで、質が低いものから高いものまで存在します。(平均的にはやや低めです。)
しかし、その中でも、「伝説任務」と呼ばれる、ガチャで出るキャラクターの一人に焦点を当てた物語を楽しむクエストは全体的に質が高く、今回はその中でも僕の記憶に残ってしまうほど良かったものを取り上げ分析します。
今回とりあげる物語が焦点を当てているのは、こちらのキャラクター「ウェンティ」、物語のタイトルは「無風の地に閉じ込められたら」です。
なお、これ以降分析のため、しっかりと物語のあらすじを書いていきます。そのため、ネタバレをしたくない人は、読み飛ばすようお願いします。
「無風の地に閉じ込められたら」のあらすじ(※ネタバレあり)
さて、あらすじを読むうえでの前提3つを簡単に説明します。
- 物語が焦点を当てた「ウェンティ」の設定:ウェンティは、正体不明の酒好きな吟遊詩人で、「自由」を象徴とする「モンド」と呼ばれる地域に滞在してします。やたらとモンドの国の神様について詳しいのですが、それは、ウェンティ自身がモンドの国の神様であるからです。
- プレイヤーの操作:プレイヤーは、「旅人」と呼ばれるキャラクターを操作します。「ウェンティ」とはそれまでの物語で知り合いになっており、神であることも知っています。
- ゲームの進め方:プレイヤーが操作する「旅人」が特定の人に話しかけると、専用の物語が始まります。以降物語の内容に合わせて、指示通りに特定の人に話しかける、特定の場所に行く、特定の敵を倒すなどの行動をすると、物語が少しずつ進みます。
では、あらすじを綴っていきます。
- 「旅人」は、ウェンティから、"空想上の友達が見えるメガネ"をもらう。(空想上の友達とは、子供心のある人だけが見る、幻の話し相手のこと)
- "空想上の友達が見えるメガネ"をつけ様々な人を観察すると、子供には「花」「機械」といった空想上の友達がいたが、酒場の大人にはいなかった。
- 観察の過程で、旅人はある少女から「ジャック」と呼ばれる青年への伝言を頼まれる。新米冒険者のジャックは、冒険譚を人々によく語っている伝説の大冒険者「スタンレー」とともに神殿にいるという。旅人は神殿へ向かった。
- 神殿に行くと、ジャックとスタンレーは敵に襲われていた。二人を助け神殿の奥へ向かう途中、スタンレーは自身の冒険譚をジャックに話す。「俺の仲間は幻の"風のない土地"へ向かうことに成功したが、そこで俺以外全員死んだ。魂がこの国へ帰ってこられるためにも、冒険者は風のない場所で死んではいけない」と。だが、話の内容には脚色が見え、本当の話か真偽は不明であった。
- ウェンティは、大人であるスタンレーに「ベテランの戦士」の空想上の友達がいることを発見する。その姿は、スタンレーが話す過去の自分自身のようであった。
- 話はまたかわり、ジャックは、「スタンレーがかつて冒険中に使用していた伝説の武具が近辺にあるらしい。これを見つければ、冒険者の夢を反対する両親を説得できそうだから、武具探しを手伝ってほしい」と旅人に依頼する。
- 旅人はジャックとともに剣と盾を見つけるも、それらは古びた剣と盾であり伝説とはほど遠かった。しかし、ウェンティが言葉を並べ立てそれが伝説の剣と盾だとジャックを説得する。それを信じたジャックは、両親の元へ説得に行く。
- しかし、旅人とウェンティは、近くに隠れたスタンレーを発見していた。旅人は、「伝説の武具の話は嘘であり、ジャックを傷つけないためにスタンレーが武具を置きにきたのではないか」とスタンレーに疑念を抱く。旅人らと出会ったスタンレーは、その場を取り繕っていた。スタンレーの冒険譚は本当なのだろうか。
- その日の夜、酒場にスタンレーはいた。スタンレーの話をまとめるとこうだ。:スタンレーが幻の地へ行ったことは事実である。しかし、今まで話していた「スタンレー」は本物ではなくスタンレーが死ぬ前に守った冒険者であり、名を偽って本物のスタンレーの冒険譚を語り続けている。
- 偽スタンレーは、「本物の大冒険者スタンレーのことをみんなに覚えていてほしい」のに「みんながスタンレーのことを忘れていく」ことに葛藤していた。
- そんな折、ジャックがスタンレーの目の前に現れる。ジャックは、冒険者の夢を両親が応援してくれたこと、自身の夢の原点はスタンレーであることをスタンレーに伝え帰っていった。ジャックは、冒険者として自立できたようだ。
- スタンレーの冒険譚をジャックの夢へつないだ偽スタンレーだが、自分は嘘つきであるという。実は、スタンレーの本当の葛藤は、「本物の大冒険者スタンレーのことをみんなに覚えていてほしい」のに「みんながスタンレーのことを忘れていく」うえに「自分自身も加齢によりスタンレーとの思い出のほとんどを忘れてしまった」ため「嘘を語り続けている」ことであった。
- 悔いるスタンレーにウェンティが近寄り、偽スタンレーの本名をささやく。瞬間、偽スタンレーの周囲に風が吹き、本物のスタンレーが手をさしのべる幻を見る。偽スタンレーを通じて、本物のスタンレーの魂は、神であるウェンティに届いた。ウェンティの見せた奇跡により、偽スタンレーは、過去と決別できたようだ。
以上です。ここからは、この物語について分析していきます。
「無風の地に閉じ込められたら」における各キャラクターの機能(※ネタバレややあり)
物語に登場するキャラクターには、物語に与える影響により以下の4つに分類されます。
上のあらすじでは、「旅人(=プレイヤー)」「ウェンティ」「ジャック」「(偽)スタンレー」の4人が主な登場人物でしたが、このうちこの物語における機能面での「主人公」は誰でしょうか。
「目的を持って行動し、葛藤し、決断し、成長した」人物、すなわち主人公は「ジャック」と「スタンレー」の二人です。では、この二人をそれぞれ主人公ととらえた場合、他の機能を持つ人は誰でしょうか。
下のようになります。
ところで、この物語は、プレイヤーが旅人を操作するゲームの中で、ウェンティの魅力を見せるために書かれた物語です。にもかかわらず、ウェンティは機能的には援助者でしかなく、旅人は機能的には物語の進行になんら影響を与えていません。「傍観者」ともいえるでしょう。
ウェンティが援助者になってしまうのは、ある意味必然といえます。ウェンティの魅力を見せる物語ですから「敵対者」にはなれず、基本一人で行動しているため「相棒」にもなれません。加えて、ウェンティは神という立場上「これ以上成長することのないキャラクター」であり、また「明確な目的を持ってもいけないキャラクター」です。すなわちウェンティは機能的に「主人公」にできません。しかし逆に、神という立場は、「他人を助ける」ことには長けています。そのため、ウェンティ以外の誰かを主人公にたて、それをいかに「援助者」として助けるかを見せることで、ウェンティの魅力を出している、というのがこの物語の構造となっています。
一方、旅人が傍観者になってしまう理由は、プレイヤーの視点およびゲームの性質と関わりがあります。
「無風の地に閉じ込められたら」におけるプレイヤーの視点
この物語においてプレイヤーは、「傍観者である旅人を操作する視点」にたっています。しかし、原神に登場する他の物語の多くでは、「主人公である旅人を操作する視点」になります。旅人が主人公になる場合、旅人の目的による行動→葛藤→決断と行動、を理解し共感させることが重要になります。そうなるとソシャゲの場合、遊ぶ全員が旅人の視点に立つため、できる限り多くのプレイヤーが旅人の行動に共感してもらわなければなりません。そのため、旅人は目的はありますが強い個性を持ちません。その目的も、他の誰かの物語の中では機能しません。
つまり、「無風の地に閉じ込められたら」という物語の中で、プレイヤーが操作する旅人は目的がないため主人公にも敵対者にもなれず、相棒にもなれず、個性で持って誰かの決断や悩みの解決を助けることも難しいのです。だから傍観者になります。
ゲームの世界にいても、旅人は本を読む読者と実質的には相違がなく、物語進行と遠いところにプレイヤーがいます。
「無風の地に閉じ込められたら」で心が動く瞬間
僕は、心が動く瞬間は以下の通りであると考えています。
どの程度主人公らの行動を理解し共感できるかどうかは十人十色ですが、それぞれの人が共感してしまうものには共通点があると僕は考えています。それは、主人公の過去の出来事・目的・悩み・決断のいずれかが、自分自身の経験と重なったときです。自分の経験と同じような状況に立たされた主人公に人は心を動かされてしまうと感じています。
僕の場合は、「無風の地に閉じ込められたら」におけるスタンレーに、強い共感を覚え、そのために記憶に残りました。それはなぜなら、スタンレーが、
周囲に見せている自分と、本当の自分との間の乖離に葛藤していたから。
です。機能としての「敵対者」が自分自身であったから、ともいえます。僕自身、過去に周囲に見せている自分と本心との間の大きな乖離に苦しみ、しかしそれを解決するための決断ができずにずっと悩み続けたときがあったので、スタンレーの思いはよく共感できました。さらに、この物語では、スタンレー自身の決断によるものではなく、神がおこした奇跡によって、悩みが解決します。これは、キリスト教において聖書に記されている、イエスが奇跡をおこす物語と通じるものがあります。僕がキリスト教系の高校を出ていて聖書の内容に親しかったことが、展開の理解を容易にしたのも、共感が強かった理由かもしれません。
あるいは、僕の場合は、謎解き、そして謎解き界隈との出会いが、奇跡であったのかもしれません。
なお、悩みは今でも少し続いていて、AnotherVisionでも大学の学科でも、その環境に上手く適合するように、本当の自分を少しずつ変えながら僕は自己を紹介しているのではないか、と考えてもいます。
原神の「ゲーム」と「物語」の関係性
では今までの話をまとめながら、原神というゲームと物語の関わりについてみていきます。
- 「原神」では、個性の薄い「旅人」を操作することにより物語を進めます。
- 「無風の地に閉じ込められたら」は、ウェンティというキャラクターの魅力を出す物語でしたが、ウェンティは機能上主人公になれないキャラクターだったので、他のキャラクターを主人公とし、それを援助者としてどう助けるかを見せることで魅力をだしていました。
- 主人公スタンレーが僕の過去と重なったため、僕は強い共感を覚え、心が動きました
原神では、視点が物語進行から離れたところにあることが特徴でした。マーダーミステリーでは、全員が「主人公そのもの」であり主人公体験が特徴でしたので、真逆であることがわかります。では、原神の「傍観者体験」=「読書体験」はなぜ記憶に残ったのでしょうか。それは、「物語内容が強く共感できるほど良かったから」です。元も子もないかもしれませんが、読書に似た形式をとる以上、物語そのものの質が求められてしまうのです。ただし、本は「読む」ことでしか物語を進められませんが、ゲーム内物語では、「戦闘する」「夜まで待つ」「目的地へ行く」といった多彩な行動があり、物語がゲーム上の行動と関われる部分は大きいでしょう。
また、マーダーミステリーがプレイヤーに「演じる」、「別の誰か」になることを強制するのと違い、原神ではプレイヤーにそのようなことを強いることはありません。布団の上でも、電車内でも「等身大の自分」で問題はありません。
上の2つをまとめるとこうなります。
謎解きイベントなどでよく、「主人公体験」と「等身大の自分」の2つのキーワードが出てきますが、僕はこれらは矛盾し余程うまくやらない限り共存し得ないと考えています。等身大の自分でありながら「主人公体験」を謳うコンテンツで、あなたたちは本当に主人公ですか?「旅人」のような傍観者や、「ウェンティ」のような援助者ではありませんか?一部の例外を除き、物語を使ったコンテンツの多くが援助者体験程度にとどまっているのではないかと僕は思っています。
6.『Song of Bloom』の考察
最後に、『Song of Bloom』というゲームを考察します。
『Song of Bloom』は、App Store限定のスマホアプリゲームです。
App Store限定で250円と有料ですが、250円以上の価値があるゲームなのでぜひやってほしい。
(ただし、全体的な物語が詩的であり、やや人を選ぶと思います。Song of Bloom の物語的側面については私もまだ十分咀嚼できていません。ここでも、物語的側面は無視します。)
ここでは、3つのゲームの考察の最後として、先にSong of Bloomにおける「存在を知る」「理解する」「完全に理解する」の流れを見たあと、「理解する」手段について、言語化しようと思います。
なお、考察の関係上「Song of Bloom」のゲーム進行に関するネタバレを含みます。特に、最序盤の攻略方法をがっつり書きましたので、ネタバレをふみたくない方は、(※ネタバレあり)と書かれた節は読みとばすようお願いします。
Song of Bloom の「知る」「理解する」「完全に理解する」のサイクルについて(※ネタバレあり)
(※ゲーム内画面のスクリーンショットを避けるため、模写した絵を用いていますが、それでもネタバレを含むことに変わりはありません。)
Song of Bloomはいわゆるパズルゲームです。しかし、そのパズルのルールが最初に明示されているわけではありません。
上の画像をみてください。これが、プレイヤーが一番最初に見る場面です。どうやら、「開始」を押すとゲームがはじまりそうです。そこで、「開始」を押してみます。すると、
よくわからない詩が始まります。当然意味はわかりません。
しかし、とりあえず文字の部分を押すと詩の先が読めるので、読んでいきます。
詩の上部には、謎の図形が次々と表示されます。
読み進めていくと……
最終的に詩が終わり最初の画面に戻ってしまいます。
この状態でできることは、「開始」ボタンを再び押すことだけ。そして、ボタンを押した後は先ほどと同じ詩が流れてまたこの画面に戻ります。一体何をすれば先に進めるのでしょうか。
上の2枚の絵を比較して見てみましょう。右側は、「『三角の頂点に赤い丸が描かれている』画面をうつしたスマホを手で持っている」ようにみえます。一方左側。詩の中に「三角」が描かれた部分がありました。どうやら、この二つの情報はつなげられそうです。そこで、
このように、三角の場面で、指でなぞって丸を描いてみましょう。すると……
突如として、全く知らない場面にうつります。
以上が、Song of Bloomの基本のゲーム進行の全てになります。
とは言ってもよくわからないので、改めて、今説明したことを振り返ってみましょう。
- 「詩」という場面に遭遇する
- 「文章の部分を押す」という直感的な動作により、詩を最後まで読めることを理解する。
- その過程で、「三角の上の頂点のまわりに丸を描く」というヒントに遭遇している
- それは、「詩の途中にある三角に丸を描いてみる」という動作を示唆していることに気がつく
- 4. の通りに実行してみる
- 新たな場面に移行、1.に戻る
というのが最初の流れでした。
上記のことを抽象化した、
- 知らない場面に遭遇する。=存在を知る
- 直感的な動作ですすめていくと最初の画面に戻る。=理解する
- その過程で、何らかの情報、すなわちヒントに遭遇している。=存在を知る
- その情報は、今まで直感的な動作で理解してきたとある場面に、非直感的な動作ができることを示唆している。
- そこで、直感的な動作をした場面に戻り、先ほど考えた非直感的な動作を実行すると、新たな場面へ移動できる。=完全に理解する
- 1. に戻る。
がSong of Bloomの基本システムです。
Song of Bloomは、ひたすらこれの繰り返しでできており、クリアするまで何度も何度も何度も「完全に理解する」喜びを得ることができます。
「理解する」手段の抽象化
マーダーミステリーの章でも述べた通り、「知る」手段が多彩であると、より面白いという感情がうまれやすいと私は考えています。Song of Bloomも、上記の通り、構造自体は同じことの繰り返しですが、2. と5. の理解するときの「直感的な操作」「情報の組み合わせ方」に一つとして同じものがないため、最後まで面白いが持続します。
実は、謎解きや脱出ゲームにおいても、構造自体は大差ないが「理解する」方法が異なることで、様々な面白さを引き出し、面白いが継続することが多いです。このように、「理解する」といっても何をどのように理解するのかは様々ですが、私はこれを大きく2種類に分けられると思っています。それが、Song of Bloomの繰り返し構造の2.「直感的な動作」と4.「情報と情報を組み合わせる」です。
直感的な動作:点から出る線をのばしてみる
例えば、目の前に箱があるとき、あなたは「開ける」という動作をしたくなるでしょう。ボタンがあったら「押す」という動作を、暗号があったら「解読する」という動作をしたくなります。そして実際にその動作を行うと、正解であった。これが、最初の理解です。
意味は不明だけど、明らかにやりたい動作があり、実際にその動作が正解であった。というものです。図にすると、以下のように、「点から出る線をのばす」というように抽象化できます。
情報と情報を組み合わせる:点から出る線2つを結ぶ
例えば、「4桁錠の書かれた箱」と「4桁の数字が書かれたメモ」があるとき、あなたは、「メモの通りに4桁錠を合わせてみる」という動作をしたくなるでしょう。「苺救護」という紙があれば、「いちごきゅうごと読める、4つの数字の読みと一致している」といった知識から、「1595」と数字を合わせてみたくなるでしょう。これが、2つ目の理解です。
意味がわからない何かに対し、他の情報や、知識・常識を組み合わせることで、なんらかのメッセージを導いたり、何らかの動作をしたくなったりする、というものです。図にすると、以下のように、「点から出る線2つを結ぶ」というように抽象化できます。
「完全に理解する」手段の抽象化:新たな線が出る
また、上記の「点から出る線2つを結ぶ」理解において、片方から線が出ていなかったとき、すなわち理解する余地があることに気がつかなかったとき、「完全に理解する」と解釈できます。
これらをSong of Bloomの基本構造に適用すると、以下のようになります。
上からも分かる通り、Song of Bloomでは、直感的な動作を多く入れることで、深く考えずに「理解した」と思わせ、その後の「完全に理解する」を発生させています。
つまり、一度きりのゲーム体験で特に感情が大きくなるため入れたい「完全に理解する」は、組み合わせる2つの情報のうち1つを、他の直感的な動作による理解で隠して先に提示することで、実現することができることがわかります。
伏線回収がすごい、どんでん返しが大きかったといわれるコンテンツの多くはこれに則っている気がしますが、どうでしょうか。
7. 物語の再構築
今までのまとめ
今までの話をまとめてみましょう。今回の分析では、以下の2枚の画像の内容に基づいて様々なことを考えてきました。
3つのゲームの分析の結果、大きく分けて2つの結論に至りました。1つは、なぜ物語で僕の心が動いたのか。もう1つは、ゲームと物語はどう調和できるかです。
前者については、原神の物語の分析により、「周囲に見せている自分と、本当の自分との間の乖離に葛藤している」キャラクター「スタンレー」の言動が、僕の過去を想起させ、強い共感を覚えたから心が動いた。と結論づけましした。
後者については、プレイヤーと物語の関係について、「主人公そのもの」と「等身大の自分」の2パターンを挙げました。マーダーミステリーのように、プレイヤーが演じることが遊びになっており、主人公そのものとして物語へ深く入っていけるものがある一方、原神や喪失メロディアでは自身が物語の展開を作る要素はなく、等身大の自分の立場で、他のキャラにより作られた物語を追うことに近いものもあります。等身大の自分の場合、今回挙げた原神の物語のように、物語自体に深く共感できれば記憶に残るのですが、そうでない場合はなかなか物語は記憶に残りません。その解決となる一例が喪失メロディアであり、「プレイヤーでない他者に感情移入をさせ、その他者の目的をプレイヤーが阻んでしまう」という方法です。これにより、プレイヤーは等身大の自分でありながら「敵対者体験」が行え、同様にして「援助者体験」もできるようになるのです。
また、マーダーミステリー、特にランドルフ・ローレンスの追憶の例から、ゲームルールに物語が考慮されているかが大事であると結論づけましたが、喪失メロディアはそれができていた成功例として過言はないでしょう。喪失メロディアでは、
- 物語が全て途中の回想及び最初と最後の映像にのみ集約され、飛ばせない
- その映像は、ゲームの謎解きのクリア報酬であり、達成感を出すための装置になっている
- 物語の内容は、謎解きの内容と関係はないが、上記のように行動に葛藤を与える
という方式をとることで、物語が必須でないジャンルにうまく物語を溶け込ませていたのです。
再構築?
では、これらの要素を参考にして、何か1つゲームとそれに付随する物語の構成を考えていきます。
…
…
あれ?
…
似ている……
…
似ている!!!
この記事を読んでいるあなたも、もしかしたら何かが脳裏をよぎったかもしれません。
上の抽象化したまとめから物語を作るときに、引き寄せられてしまう何かのせいで、ゲーム内物語の作成は続行不可能になりました。
……そこで方針を転換し、「感情が動く瞬間」の展開に忠実に添った、短い物語を作ることにします。ひとまず大まかな展開はできました。それがこちら。
私と彼との関係は、「一心同体」という言葉で表すことができる。小さい頃から一緒だったから、私は彼のことを誰よりも多く知っているし、彼もまた、私の全てを知っているはずだ。私の人生は、もはや彼の存在なしに語ることはできない。
→現在の行動の動機となる過去の出来事
未来のことはわからないけれど、このままずっと、彼と一緒に過ごせたらいいな……。そう考えていた。
→「主人公」の「私」の欲求・目的
しかし、彼には、私に内緒にしていた秘密があった。今まで彼が私に見せていた顔は、彼の本当の姿だったのだろうか。私にかけてくれた言葉や、数々の贈り物は、彼の本心からのものだったのだろうか。それとも……。
→目的達成を阻む対立要素=「敵対者」:彼
目の前には、1冊の本がある。この本を開けば、彼の全てを理解できるはずだ。しかし、それは同時に、彼に対する印象が大きく変わってしまう可能性を秘めている。
「このままずっと、彼と一緒に過ごせたらいいな……。」
そんな私の願いは、叶わなくなるかもしれない。
→悩み・葛藤
長いこと考えた挙句、私は決断をした。私は本を……
→決断
では、上に文章を足してちゃんとした物語にしていきましょう。
……
……
(頓挫する音)
「理論」と「実践」でいう「理論」も「実践」も全く持ち合わせていませんでした。
まずは「理論」の方をなんとかしよう……!
「実践」については何もやってませんね。プロットという骨に肉をつける作業、いわば実践的な文章化についてはまだまだ技術不足でした。
さらに、どちらかというと、僕は物語の表層に現れる一つ一つの文の修辞やリズムなどより、背後にある全体的な展開、プロットを考えるのが好きだったようです。
上のような展開がテンプレに当てはめたらさらっとできてしまい、どこかそれで満足している僕がいます。
そんなわけで、物語が完成しませんでした。次の章は完成した物語をのせる用に作っておいたのですが、必要がなくなったので一行で終わらせます。あと、上の物語の雛形のようなものは、折角なのでこの記事の冒頭にでもおいてつかみにしましょう。
8. 完成したコンセプト
脳内プレイが十分でなく、ゲームシステムがフワフワしすぎているのは、ブログ記事だからということで、ここで妥協させてください。
とはいっても、知的遊戯を楽しむ人をターゲットに絞れば、「面白そう」はいくらか出せたのでは?と思っています。折角なので、爽快!魔法学理論を脳内プレイしたときの記録を書き起こして記事冒頭におき、つかみにしてみます。
9. まとめ
いかがでしたか?長い文字数を割いて分析し続けた結果は、既存の何かであり、この記事のために作ることができたのは、物語の展開のほんの一部でした。
そもそも今回は、物語の背後の構造にばかり注目して分析をしていたので、それだけを武器にして物語を作りきるのは無理があったのかもしれませんね。
ところで、この記事を書いていて1つ思ったことがあります。
"記事が長すぎる"
3つのゲームの分析をした結果、長くなりすぎたのです。しかも分析記事。これでは、読み飛ばされてもいたしかたないでしょう。
どうにかしてこの記事を、読みとばされない、ゆっくり読める記事にできないでしょうか。
例えば、記事に何か「秘密」を混ぜ込んだうえで、「記事の秘密を暴け」とこの記事を読む人に目的をつけ、ゆっくり読ませるようにする、とか…
ということで、メタ視点のKaDiです。
みなさん、このブログ記事に数多くあった、不自然な点に気がつきましたか?
答えあわせとして、このブログ記事の内容を振り返ってみましょう。
1. はじめにで私は、「AnotherVision 8期のKaDiです。」と名乗っていました。AVCCであるのでAnotherVisionに在籍しているのは当然です。しかし、2. 自己紹介ではどうだったでしょうか。所属をeeic→AnotherVisionとしていたり、謎解きが好きな人ばかりが見るはずの記事でなぜか謎解きをしっかり説明していたり、AtCoderを説明なしに「多くの人がやっている」と紹介していたり、AnotherVisionを知っている人向けの記事として少し不自然ではなかったでしょうか。
3. 物語を作りたいでは、今年触れたコンテンツの中でゲーム内物語が良かった3つのゲームの分析をすると書きました。しかし、そのうちの3つ目、「喪失メロディア」というゲームの分析は存在せず、そのかわり、なぜか「Song of Bloom」というゲームについての文章が存在していたはずです。加えて、「物語」をテーマとしていたのに、Song of Bloomでは「物語的側面は無視する」として理解する思考の抽象化に関する話、ゲームルールの考察であり、前後と話の文脈が合いません。
考察対象としては同じ、4.『マーダーミステリー』の考察も、よく読むと「知ること」に焦点が当たっていますし、全体的にゲームのルールに注目がされています。
そして7. 物語の再構築で物語を作ろうとするも、作ることができなかったという展開になったにもかかわらず、8. 完成したコンセプトはなぜか全く知らないゲームのコンセプト資料でした。
他にも、一人称が「私」と「僕」が混在したり、強調するときの色が青と赤の二種類あるなど、変な箇所はたくさんあったはずです。
一体、何が起きていたのでしょうか。
そういえば、原神の考察で、こんなことを言っていました。
AnotherVisionでも大学の学科でも、その環境に上手く適合するように、本当の自分を少しずつ変えながら僕は自己を紹介しているのではないか
あなたが読んでいた記事を書いたのは、本当に、AnotherVisionのKaDiだったのでしょうか。
例えば、記事の一部を書いたのは、AnotherVisionのKaDiではない別人であった、とか考えられないでしょうか。
答え:
このブログ記事では、偶数の章が、EEIC(所属する学科の略称)のKaDiの書いた、全く別の記事の偶数の章になっていました。
具体的には、今まで読んできた中では、
- 2. 自己紹介
- 4. 『マーダーミステリー』の考察
- 6. 『Song of Bloom』の考察
- 8. 完成したコンセプト
の4つの章は、ゲームルールに関して分析した全く別の記事の内容だったということになります。
それをふまえて読んでみると、ここに書いたこと以外の、様々な伏線や違和感に気づけるかもしれません。よければ探してみてください。
では、メタ視点はここまでにして、最後にAnotherVisionのKaDiにお返しして記事を締めてもらいましょう。
10. おわりに
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
2021年12月15日のアドカレはEEIC2022のKaDiがお送りしましたが、EEICのアドベントカレンダーには他にもEEIC2022内定のみんなの面白い記事があるのでぜひぜひ読んでみてください!
以上、KaDiでした!メリークリスマス!よいお年を!
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